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2011年04月01日

試される専門家

日本惑星協会のメルマガより 転載します

☆☆ PSコラム ☆☆ (第67回) 

   「試される専門家」

   3月11日、大地震が起きたとき、私は34階建てのビルの
   20階のオフィスで働いていた。荒波に揺さぶられる小舟の
   ようにビルは大きく、長く揺れたが、幸いに本棚から本が落
   ちることもなく、無事に地震のゆれをしのぐことができた。
   しかし、そのあと、ビルのエレベーターは止まり、帰りの電
   車は止まり、都内で働く多くの人と同様に私も帰宅難民の1
   人になってしまった。でも、こんなことは東北地方の被災者
   の災難に比べればたいしたことではない。
 
   このあと、今日にいたるまで時間があれば、この地震と津波
   についてのテレビ番組と新聞を見ているが、映し出される被
   害の様相には胸が痛くなる。一方、この出来事を報道するテ
   レビや新聞の報道の質の低さは、目にあまるものがある。テ
   レビの前で、もっとしっかり報道しろと叫びたくなるような
   思いに駆られることもしばしばあった。とくに、地震の当日
   から最初の数日間は、取材している記者がどこにいて、何を
   みているか正確に記述できないひどさ、原子力発電所の事故
   についての解説の曖昧さなど、これが文明国の報道かと驚く
   ようなものが多かった。原子力発電所の記事などは、ニュー
   ヨークタイムズ紙の記事のほうが遙かに詳細で、正確なもの
   だった。
 
   私は地震学者のはしくれでもあるので、今回の大地震には衝
   撃を受けた。東北地方の太平洋岸には過去になんども、大地
   震がおこり、近いうちにマグニチュード8程度の地震は起こ
   りえるものと考えられていた。しかし99%の地震学者は、
   まさかここにマグニチュード9に達する超巨大地震が起こる
   とは予想していなかった。しかし考えてみれば、チリ地震や
   昨年のスマトラ地震のように、マグニチュード9を超える地
   震が実際に存在しているのだから、ここにマグニチュード9
   以上の地震が起こらないと考える方が, これまでの地震観
   測から作り上げられた常識という偏見に捕らえられた見方だ
   ったのである。この規模の地震はめったに無いことだが、起
   こりえないという自然現象ではなかったのである。私を含め、
   多くの地震学者にとって予想外の規模の地震だったが、予想
   外だったと一言では片付けられない惨状が目の前にある。私
   をふくめ地震学者はどうすべきだったか、ゼロから考え直さ
   なくてはならない。
 
   地震・津波災害の他に我々は今、原子力災害を被っている。
   このニュースの解説に登場する原子力の専門家と称する人達
   のコメントも、また災害の報道記者と同じく、大部分が意味
   不明であるか、公表された資料以上のものをコメントしてい
   ない。公表されている限られたデータでは、はっきりしたこ
   とは不特定多数の視聴者の前で発表できないのかもしれない。
   そうだとすれば、せめてどういうデータがあれば、現在何が
   起きており、これからどういう対策を取るべきかについて、
   説明できると言うべきなのではないだろうか。 
 
   報道の専門家、地震・津波の専門家、原子力の専門家など、
   こういう大災害にあってはほとんど市民の役に立たないこと
   が露呈された。テレビのニュースを見ている限り、日本の専
   門家の底の浅さが透けてきた。学問の深化と市民に役立つ学
   問を進めることの両輪をこれからどうするのか? 悔恨と自
   省とに悩まされる毎日である。


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Posted by 高岸院長 at 14:17│Comments(0)震災
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